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コラム:ボルネオの自然から得た学び


BCTJでは毎年SOMPO環境財団のCSOラーニング制度からインターン生を受け入れています。今年のインターン生は、筑波大学生命環境学群生物学類4年の河村幸音さん。なんと過去にボルネオ島サバ州のサバ大学への留学したことがあるということで、その時の経験を振り返りつつ、ボルネオの生物多様性について考えていただきました。

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今回は、マレーシア・サバ大学に留学していた4か月を思い返しながら、ボルネオの生物多様性について考えて改めてみたいと思います。

環境省HPによると「生物多様性とは、生きものたちの豊かな個性とつながりのこと」。生物多様性というワードを耳にした時、森林、山、海、特異な形をした昆虫、島の固有種、さまざまなスケールの自然を思い浮かべることと思います。生物多様性には「生態系の多様性」、「種の多様性」、「遺伝子の多様性」という3つの指標があり、ボルネオはそのどれもが特別に感じられました。

1.ボルネオ留学中に見た生態系の多様性

ボルネオ留学中には、2回の野外実習に参加しました。生物保全学実習ではMaliau Basinという保全林を訪れました。サバ大学からは遠足バスで10時間位かかりました。早朝に頭上で響くギボン(ミュラーテナガザル)の鳴き声や、不思議そうに私たちを見つめる哺乳類の目、枝にとまりぐっすり眠る固有種の鳥(crowned pitta; Erythropitta ussheri)など、見るものも聞く音もすべて夢のようでした。

Maliau basinの展望台からみた保全林の様子

実習中に見つけたゾウの足跡

ほかには、シュノーケリングの実習にも参加しました。海の中は森林にくらべて、とてもカラフルでした。熱帯魚やヒトデ、サンゴも目立つ色をしていました。サンゴにも様々な形があることを初めて知りました。生命の始まりは海洋だと考えられていますし、現存する生物種の8割が海にすんでいるという推測もされています。まだまだ人の手が届かない、生命の神秘の世界が海洋だと感じました。

海岸で拾った貝殻やサンゴ、フジツボなど

授業がない週末には、現地の友人が滝やビーチに連れて行ってくれました。滝つぼで泳いだり、近くを散歩したりするだけでも自然のパワーを感じます。とくにボルネオの端と言われるKudat(クダ)の海岸では、見事な地形と夕焼けに感動しました。

滝の裏側にいる私

Kudatでみた夕焼け

Kudatの不思議な地形

留学の最後にはマレーシア最高峰、標高4095mのキナバル山に登りました。登山口は1800mくらいのところにありジャングルを進んでいくのですが、だんだんと植物の背丈が低くなり、3300mを超えたあたりからは植物がぐんと減りました。山頂近くではひたすら大きな岩の表面を歩いているような感覚でした。国中に広がる熱帯の植生のなかに、ふとあらわれる高山の植生は興味深かったです。

登山の序盤。まだ植物が多く蒸し蒸しした様子

山頂(右上)が見えてきた頃。植物の背丈がかなり低くなった

標高3200mを超えたあたりの宿泊施設。森林限界がみえる

山頂付近の様子。つるつるした岩場をひたすら歩いた

最後に急な登りを抜けると山頂

 

2.ボルネオの豊かな生物多様性について考えた

なぜボルネオの地では、世界でもまれな生物多様性が育まれてきたのでしょうか。留学中に履修した科目では、その理由について考えました。

・氷河期も陸が残る地域で、突然変異の積み重ねで進化するために十分に長い時間があったからではないか。
・多様性の高い地域には敵も多いはず。生き残るための戦略も多様化して、種の多様性がうまれたのではないか。
・色々な地形や食べ物があるため、それぞれの種がうまくすみわけできる可能性が高く、種間競争によって淘汰される確率が低くなるからではないか。
・すみわけに成功した小さな個体群では、遺伝的浮動が早く進むため特異な形態がうまれたのではないか。
・四季がなく、大きな景観の変化や気温の変動がないため、進化しやすいのではないか。

この疑問に解答は出ませんが、考えれば考えるほど面白いテーマだと思います。

樹高が70mにも達する森では、キャノピーウォークも林冠にはほど遠い

 

3.日本人の自分が、ボルネオの生物多様性を目の当たりにして感じたこと

留学中に所属していたのが保全生物学科と海洋学科だったこともあり、自然の魅力や素晴らしさを人々に伝え、後世に残していこうという気持ちを共有できるクラスメイトとの出会いが何よりも嬉しかったです。その友人たちと、自然を求めて出かけることほど幸せな週末はありません。

そうして自然を楽しむことももちろんですが、学問として生物多様性保全を学んだことによって、保全活動には生物学的な側面だけでなく社会的、経済的側面など様々な角度から人間が関わっていかなければならないことが改めてわかりました。保全活動家や研究者、それを伝える科学コミュニケーターに加え、現地の住民やそこで生み出された製品を使用する遠い国の消費者までが関係者といえると思います。

また、実習で保全林の職員の方にインタビューをした際、次世代のために生物多様性を保全する方法として「原生林を手つかずにしておく」という選択がとられている場合があることを知りました。その理由は、次世代が自然を探索する楽しみを奪わないためであると聞きました。

生物多様性保全に対する考え方の一つに「生物多様性なくして人間は生きられない」というものがあります。生物多様性は新薬の開発やアイディアの起源となるだけではなく、レクリエーションの面でも人間を助けてくれるものだと気づかされました。

生きものたちの個性とつながり、そのつながりには間違いなく私たち人間も含まれていると思います。ボルネオの自然は、その見事な多様性で私を感動させてくれたと同時に、非常に大きな学びを与えてくれました。今はボルネオに渡航できませんが、いつかまたボルネオの仲間と自然に再会できる日がくることを心から願います。

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