プロジェクト

【'08 10月】1号吊り橋架橋プロジェクトに参加した水品繁和さん(市川市動植物園)のレポート

事前に知り得た情報(吊り橋図面作成の手掛かりとして)

1.オランウータンが川を渡るための試みは3年程前から続けているが一度も渡ってくれなかったとのこと。
2.オランウータンが渡らない原因として考えられることは?

①橋の材質
チェーン、ワイヤーなどで試みたが金属は熱を持ってしまい渡れないのではないか。そこでチェーンにゴムチューブをかぶせたが今度はゴムが滑ってしまい渡りにくいのではないか。

②オランウータンは水を極端に恐れるため
能力的に渡れないというよりは恐怖心のため渡らないのではないか。

③形状の問題
2本のロープが上下に張ってあるだけでは2次元の空間でしかない。オランウータンは樹間に住む生き物であり樹上の3次元空間に適応している。最低でも3本あるいは4本以上のロープにより3次元の空間を用意する必要があるのではないか。また、3次元にロープを張ったとしても、黒鳥さんのスカイウォークでの観察によれば、つかんだロープとロープが離れてしまったりする経験を味わうと彼らの中に恐怖心が芽生え移動を躊躇してしまうそうなので注意が必要とのこと(黒鳥さん)。

<見解>
材質の問題も水への恐怖も理由として十分考えられる。オランウータンという種の性質から考えると、彼らは渡る努力をした結果、無理なのであきらめたと考えるよりは、渡る前に渡れるか否かを考え(沈思黙考型)、事前に無理だと判断してしまい渡ろうとしないのではないかと受け取るほうが自然な気がした。

3.過去に川を渡った実績はないのか?

人間用にかけた吊り橋は唯一渡ったことがある(久世さん)。

<見解>
人間用の吊り橋なら渡るということは、必ずしも外見が自然物でなくても彼ら自身の解析によって「これなら安全に渡れる」と踏めれば渡る可能性はあるのだと推察できる。ならば人間用の吊り橋を作ればよいと思うかもしれないがそのためにかかるコストには1本1千万円近くは掛かるとのこと、それなら土地を買うべき。

図面作成時のコンセプト

今回は渡らせることが第一。オランウータンが渡るためにプラスと考えられる要素で実現可能なものは全て図面に盛り込む。図面を元に関係者と協議(技術の伝承のためにも重要)、現地での取捨選択。無駄な部分は将来実際にわたった場合に検証しながら取り除けばよいことと考える。

個別のビジョンについて

唯一オランウータンが渡った実績があるのは人間用の吊り橋。少なくとも人工物でも彼らが行けると踏めば利用してくれるという証拠にはなる。消防ホースを使い、なるべくこれに近いものを製作する。なぜ人間用の吊り橋をオランウータンは渡ったのか?推論を列挙すると、安定性(外見で判断)、3次元で機能的、板が川への恐怖心を軽減、人間が渡る姿を見て学習etc…実際の寸法などは現地の状況を確認した後、製作時にオランウータンの身体的スパンに合うサイズを決める(一度も現地を見ていない状況で決めるのは危険と判断)。

つるの再現(3次元化)。吊り橋に装飾的に広がりを持たせる。視覚での安心感が増せば、オランの決断を促せるかもしれない。

本物のつる性植物を巻きつけ、つるによる森を作ってしまう。もしこれが可能なら消防ホースはつる性植物の基軸として機能し、将来ホースが朽ち果てても川の上に本物のつるによる森が残るかもしれない。人工物としての視覚によるマイナス効果が減少する。

さらに、つる性植物がイチジクのようにオランの食物となるものであれば餌という自然界における最大の行動の動機がそこに得られることになる。

消防ホースを川べりだけでなく森の内部まで張り巡らす材質に対する認識を促せるかもしれない。

吊り橋・寸法などの詳細を決める

必要以上にホースを使用してしまえば、材料が不足したり橋の重量が増してしまう恐れがあるので、出来る限り無駄のない形にしなければならない。

①上部メインロープはスカイウォーク由来のシステムとして機能。

②橋の幅80センチ
使用したホースは4本、1本の幅が10センチなので約13センチの間隔が出来ることになる。

③約150センチ間隔で縦を入れる
オランのスパンを考慮した無難な距離。人間と違いメインロープを手で握りながらこの縦ロープを足でつかみ移動する可能性も考慮した。その間に2本編みこんだ形で挿入、空間は約40センチとなる。そのため吊橋の床部分には13×40の空間が出来ることになるが、そのサイズならすり落ちる危険はないと判断した。

④吊橋の高さ150センチ
130、170なども考えた。さらに吊橋の中央にもう1本高さを変えて張ってはどうかというビジョンであったが現地の形状、制作手順などから削除。これらの議論の末150センチに決定。

⑤上部に横張り
メインロープが進行方向に対し縦なので、数か所横にもつなぎを入れる。メインロープが広がらない為でもある。設置時に仮に邪魔であると思えば、何本かは切断するつもりもあった。

オランが渡る可能性・時期

今後、オランウータンがこの吊り橋を実際に利用してくれるか、それをどのような手段で確認すべきかという問題といつ頃渡る可能性があるかという問題。確認方法は定点カメラまたはスタッフを雇い張り込むなどの提案がなされていたがどちらにも問題点がある。渡る時期については、吊り橋を縛り付けたイチジクの実がなれば採食という動機が生まれ可能性は増す。しかし今のところ実の付ける時期については調査中、期待がかかる。もともとこのイチジクこそが場所選定の決め手であり、森の植物に詳しい稲田さんの助言なしにはたどり着くことはできなかった。これだけ多くの方がそれぞれの役割を担い今回の取り付けにこぎつけたのだから、もしも本当にオランウータンが渡ってくれたらそれは奇跡とよべるかもしれない。

今後に向けて

第一号の吊り橋はひとまず形になりました。対処方法のはっきりとした問題点は次からの活動で修正できると思います。いくつかの問題が未解決の課題として立ちはだかっています。軽量化を図れば木への負担も軽減します。形状の改良はとにかく一度オランウータンが渡ってくれてそれをVTRなどで撮影出来れば、検証が進むはずです。イザベラさんに提示された最終目的地は40メートルという途方もない川幅でした。これにはさらに多くの専門家が関わる必要がありそうです。そのためにもオランウータンが今回の吊り橋を利用してくれることを祈ります。

坪内さんは、コタキナバルの空港で私たちを出迎えて下さったときに「オランウータンはちょっと間に合わなかったかもしれないな」とつぶやきました。その一言にいまオランウータンの置かれている厳しい現状が現れていたように感じます。「オランウータンの吊り橋」プロジェクトというものは保全という大きな目的の上では、ただの時間つなぎでしかないのかもしれません。こうしている間にもどんどん森は破壊され状況は悪くなるばかりだと。それでも今回のプロジェクトが話題を呼び、その延長線上に本当の意味での保全とこれらの責任は私たち自身にあるのだという気づきをもたらすきっかけになれば、それも無駄ではないはずだと思います。日常生活を見直し、つけた火は自分で消しましょう(マッチ・ポンプ)という坪内さんの呼びかけを多くの日本人が実行できれば必ず未来は変わるのだと信じたいと思います。そのために今の自分に出来ることをひとりひとりが考えていきましょう。

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