ボルネオの環境問題の最前線。

3分でわかるパーム油

3分でわかるパーム油

パーム油(Palm Oil)は、「アブラヤシ」という植物から採れる植物油です。30kgほどもある果房ひとつひとつに数百~約2,000個もの果実がぎっしりとついていて、その果肉からパーム(原)油(Crude Palm Oil)が、種からはパーム核油(Palm Kernel Oil)がしぼり取れます。

パーム油とパーム核油は成分が異なります。パーム油の主成分はパルミチン酸。パーム核油は飽和脂肪酸を主な成分とするほか、ラウリン酸を豊富に含みます。

ちなみに「ヤシ油」と呼ばれる油はココヤシの実から採れるココナツオイルで、パーム油ではありません。ヤシ油はパーム核油と似た成分を持ち、食用のほか洗剤やシャンプーなどに使われます。

パーム油の生産工程

パーム油の生産は、プランテーション内でアブラヤシの果房を収穫するところから始まります。

アブラヤシは成長すると樹高が20m以上に成長し高い幹の先端付近に実がなるため、収穫作業はとても大変です。労働者は長いカマを操ってひとつづつ実を切り落とさなくてはなりません。

アブラヤシプランテーション写真:アブラヤシプランテーション。果房を切り取る作業は高温多湿の中での重労働

果房は幹から切り離されるとすぐに酵素による分解が始まってしまうので、品質を落とさないためにすぐに大型トラックで搾油工場に運びます。

アブラヤシの果房写真:アブラヤシの果房

搾油工場内では集めた果房を蒸して酵素の不活性化を行い、その後に柔らかくなった果実を潰して油をしぼります。しぼった直後の油は濃いオレンジ色です。不純物を取り除くと透明度が増し、においも薄くなります。

しぼった直後のパーム油写真:しぼった直後のパーム油。オレンジ色なのはβカロテンを含んでいるため

パーム油の生産地

アブラヤシは高温多湿の熱帯地域で育つ植物です。原産国は西アフリカや中南米ですが、1960年代以降マレーシアで、1980年代にはインドネシアでプランテーションによる栽培が盛んになりました。現在、パーム油生産の80%以上はマレーシアとインドネシアで行われています。

出典:Oil World Annual 2017

出典:FAOSTAT

パーム油の生産量

パーム油は世界で最も生産されている植物油です。2015年には世界全体で6256万トンのパーム油が生産されています。アブラヤシは1年を通して実をつけるので単位面積当たりの収穫量が他の植物油原料よりはるかに高く、大豆油やなたね油と比べて8~10倍もの生産が可能です。そのため価格も他の植物油脂より安く、安定した価格で安定した供給が可能なため、新興国から先進国まで世界中の国々がパーム油を輸入しています。


出典:Oil World Annual 2017

出典:我が国の油脂事情(農林水産省)

パーム油の独特な性質とは?

パーム油の他の植物油と大きく異なる特徴は、飽和脂肪酸であるパルミチン酸を豊富に含んでいることです。

一般的にバターやラードなど動物の脂肪は飽和脂肪酸を多く含み、菜種や大豆といった植物の油は不飽和脂肪酸を多く含みます。

パーム油には飽和脂肪酸(パルチミン酸)、不飽和脂肪酸(オレイン酸)がともに40%ほどが含まれます。パルチミン酸の融点が63度、オレイン酸の融点が13度であることを利用し、脂肪酸を分別して不飽和脂肪酸を減らせば固体(パーム・ステアリン)のパーム油として、また飽和脂肪酸を減らせば液体(パーム・オレイン)のパーム油として、溶ける温度の異なるパーム油を作ることができます。そのため、さまざまな用途、製品に使うことができるのです。

パーム油の使いみちは?

固形のパーム油は口に中でとろけます。そこでチョコレートやアイス、マーガリン、ホイップクリームの代替品として使われます。また液体パーム油は、酸化や過熱に対する耐性が強いので、インスタント麺やスナック菓子の揚げ油に使われたり冷凍フライなどにも使用されます。

日本に輸入されるパーム油の80%は食用で、インスタント麺や調理済み冷凍食品、ポテトチップスなどのスナック菓子、ファストフード店や外食店舗の業務用揚げ油として、マーガリンやショートニングの原料として、また加工食品の材料としてチョコレート、アイスクリーム、ドーナツ、ビスケット、コーヒーフレッシュ、カレーのルー、乳児用粉ミルクなど、わたしたちが毎日のように食べる食品の材料に使われています。また非食品としても洗剤やシャンプー、口紅、塗料、ねり歯磨きなどに使用されます。

バイオマス発電の燃料としてのパーム油
2016年になって、バイオマス発電の燃料にパーム油を使う発電所の申請が急増しました。バイオマスとは「再生可能な生物由来の有機性資源で、化石資源を除いたもの」で、温暖化防止対策に世界中でCO2削減が強く求められるなか、バイオマス発電は注目されている事業です。

パーム油は安定した供給が可能で、木くずなど他のバイオマス燃料と比べて施設が小さくてよいため初期投資も抑えられます。液体なので燃やした後のゴミ処理も必要がなく、処分費用もかかりません。事業者にとってはメリットの多い燃料です。これをビジネスチャンスととらえ、パーム油発電の固定買取価格制度(FiT)による認定が増えてきているのです。

そこで疑問が生まれます。パーム油はそもそもバイオマスと言えるのでしょうか?

1年中実をつけるアブラヤシの果房から絞るパーム油は、確かに再生可能な生物由来の有機性資源と言えるでしょう。しかしそのアブラヤシは、そもそもは広大な熱帯雨林や泥炭地だった土地を開発して作られた巨大な農園(プランテーション)で成長しています。生産過程ですでに膨大なCO2を排出しており、その排出係数は化石燃料より高いとする報告書も持続可能なパーム油のための円卓会議(Roundtable on Sustainable Palm Oil、RSPO)から発表されています。

そのためヨーロッパではバイオマス燃料としてのパーム油使用は規制が進んでいます。アメリカでは「パーム油はCO2削減効果の基準を満たさない」として使用が認められていません。

そんななかで日本は認可を増やし、パーム油の使用料を増やそうとしています。このまま進めば国内の環境団体はもちろん、世界の環境団体やビジネスパートナーからも厳しい目が向けられるでしょう。

パーム油の環境問題

1年を通じて生産量が多く、価格も安く、使いみちも多様。パーム油はわたしたちの日常生活を支える優秀な植物油です。でも良いことづくめではありません。なぜならパーム油の生産増加は、熱帯雨林の減少と直接関係しているからです。

アブラヤシが育つのは赤道直下の熱帯地方のみ。生育条件が熱帯雨林の分布と重なっているので、アブラヤシプランテーションを開発するためには熱帯雨林を伐採するほかありません。

ボルネオでもかつては広大な低地熱帯雨林が広がっていました。1500万年以上も姿を変えなかった熱帯雨林や泥炭湿地林は、プランテーション開発にともなって、わずか50年ほどの間にボルネオ全体で40%もの面積が消失しています。

写真:アブラヤシプランテーションの乱開発が進むボルネオ

すみかである熱帯雨林をうばわれて生活圏を狭められ生きる場所を失った希少な野生動物は、絶滅の危機に瀕していきます。ボルネオゾウやオランウータンがプランテーションに入り込んでしまい、害獣として扱われ捕獲されたり殺されてしまうといった痛ましい事件も頻繁に起きています。

最近では、開発時に起こる大規模な森林火災も大きな問題です。人工衛星から撮影できるほどの膨大な量の煙はヘイズ(煙害)と呼ばれ、近隣諸国の人々に健康被害をもたらすほか、野生生物の生活にも非常に大きな影響をあたえます。

パーム油は生産国と消費国の双方にとって大切な植物油であることに間違いはありません。しかし一方で、地球規模の環境問題に結びついている植物油であることもまた事実なのです。

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RSPOについて

RSPOは “Roundtable on Sustainable Palm Oil” の略で、日本語では「持続可能なパーム油のための円卓会議」と略される世界規模の非営利組織団体です。

21世紀のはじめ、急速に増える世界のパーム油需要と引き換えに、アブラヤシプランテーション開発にともなう熱帯雨林や生物多様性の大規模な消失、労働者の劣悪な環境や土地開発での地域住民との衝突は大きな社会問題でした。

パーム油はこれからも必要だ、でもこのままでは明らかに問題がありすぎる。そこで環境や人権に配慮した持続可能なパーム油生産について関係者が一体となって考える場を作ろう、ということで2002年に生まれたのがRSPOです。

世界自然保護基金(WWF)が呼びかけ、生産側の団体や消費側の大手企業が参加して会議を行うところから動き始め、今では世界で3000以上の組織が参加する団体です。毎年11月に世界規模の会議が開かれます。

円卓会議ってなに?
円卓会議とは文字どおり丸いテーブルを囲んで行う会議のこと。RSPOでは意見のバランスを考えてパーム油の生産者や製油業者、パーム油を使って製品を作る企業、流通に関わる商社、環境保護、人権保護の観点で語るNGO、パーム油業界に投資する銀行や投資家、製品を販売する小売業者といった異なる視点を持った関係者が、丸いテーブルを囲むように平等な権利を持って参加しています。

RSPOのビジョン

持続可能なパーム油が標準となるように市場を変革する

ミッション

・持続可能なパーム油製品の生産、購買、融資、利用の促進
・持続可能なパーム油サプライチェーン全体国際的な基準での策定、実施、検証、保証とそれらの定期的な見直し
・持続可能なパーム油取引の経済、環境、社会への影響を監視、評価
・パーム油の生産、流通、消費、に関わる全ての関係者との積極的な関わり

RSPOの原則と基準

RSPOではパーム生産において経済的に持続でき、かつ環境的に適切であることを念頭にした8つの原則(RSPO Princiles and Criteria)を示しています。社会状況とズレないように5年ごとに見直されます。

    RSPOの8つの原則

  • 透明性へのコミットメント
  • 適用される法令と規則のコミットメント
  • 長期的な経済および財政的な存続可能性へのコミットメント
  • 生産および搾油、加工時におけるベストプラクティス(最善の手法)の採用
  • 環境に対する責任と自然資源及び生物多様性の保全
  • 農園、工場の従業員および生産や工場から影響を受けるコミュニティへの責任ある配慮
  • 新規プランテーションにおける責任ある開発
  • 主要な活動分野における継続的な改善におけるコミットメント

認証制度について

関係者にとって一番気になるのはRSPOが策定した認証制度でしょう。アブラヤシプランテーションの運営が原則と基準にそって行われているか、また作られたパーム油が加工、流通の段階できちんと管理されているかについて第3者機関がチェックし、基準をクリアしていれば認証します。

パーム油は生産-流通-消費の過程でとてもたくさんの企業が関わっているため、生産段階とサプライチェーン段階で別々の認証が用意されています。

認証を受けたパーム油は「認証パーム油」として扱うことができ、商品にも認証済みを示すマークをつけることで他のパーム油と区別され消費者が選択できるようになっています。

認証のモデルは「Identity Preserved、IP」「Segregation、SG」「Mass Balance、MB」「Book&Claim、B&C」の4レベルで管理されています。

1.Identity Preserved

生産農園が特定でき、最終製品の製造までの段階が認証を受けていて、他のパーム油とも隔離されている最もレベルの高いモデルです。

2. Segregation

複数の認証農園で生産されたパーム油を混ぜていますが、非認証パーム油はまぜずに最終製品の製造に至るモデルです。生産場所を1箇所に特定できませんが、認証農園から生産されたパーム油であることが保証されています。

3.Mass Balance

流通の過程で認証パーム油と非認証パーム油を混ぜて生産するモデルです。純粋な認証パーム油ではありませんが、認証農園と数量は確認することができます。

4.Book & Claim

認証パーム油を証券化して生産者、最終製品の製造者、販売者の間で取引される、「台帳方式」と呼ばれるモデルです。購入するのは非認証パーム油になりますが、証券を購入することで生産者に金銭的な還元がされるメリットがあります。民間企業によるオンライン取引で運用されていましたが2017年1月からRSPOによる直接運用に変更されました。

認証パーム油の認知度は?

一般的なパーム油より価格も高く消費者の認知度も高いとは言えないため、経済効率を優先する企業にとって導入が簡単ではないのは事実です。ですが、EU諸国を中心に認証油でないと扱わないという国や企業も増えています。

一大消費国でありながら認証パーム油には関心を示さなかった中国やインドでも、取り組みが始まりつつあります。

消費者が環境問題により厳しく目を配る社会では、認証パーム油を使っていることが当たり前、使わない企業は消費者から選ばれない企業になっていく社会になっていくのではないでしょうか。

日本社会の動き

2018年5月現在、日本からは84社がRSPOのメンバーになっていますが、最もパーム油を消費している大手食品メーカーの参入はまだほんの少数です。パーム油がもたらす環境問題の認知度が低い日本では企業の取り組みも自主性に任されているのが現状です。

一方で、2017年にはグリーン購入ネットワークによるパーム油導入基準が示されたり『RSPOジャパンデー』が初めて開催されるなど、企業の認証パーム油導入に向けた環境の整備が少しづつ整ってきています。

RSPO認証は「完璧な制度だ」とはまだ言えません。でもパーム油の環境問題を考える上で、現時点では最も環境のことを考えた制度であることは確かです。わたしたち消費者がもっと関心を寄せて、企業に認証パーム油の使用を求める声を届けることが社会を変え、未来を変えるのです。

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